大学生の頃③ 死にたがりだった自分と

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では、続きです。

 

死にたいなんて簡単に言わない方がいいのかもしれない。

けれどそう口にする裏側には

きっと一言では語り尽くせないような、そういう話がある。

簡単に死にたいと言えてしまうその奥、その先に、

簡単には打ち明けられない話がある。

 

お互いを結びつけた共通点と言えばそんなものだった。

簡単に話すことができない話の断片を、見せてくれた。

目次

打ち明けられた話

根拠のないもの

大学入ってから一番最初にカミングアウトした人がいる。

一年の春、新歓の飲み会、その帰り駅のホーム。

明確な根拠なんて無くて、ただこの人には話しても大丈夫だろうな、という曖昧な自信というか、確信に近いものがあって

それを元に話してしまった気がする。

明確な根拠のない確信。

すごく頼りない。

でも結果としてそれは本当に、打ち明けてよかったと思えるものだった。

 

4年越しに

卒業した今でもたまに連絡を取る。

頻繁にとるわけでもなく、半年に一度ほどお互いの近況報告がてらという具合に。

それくらいの距離感が丁度よかった。

彼とは他にもいろいろな共通点が見つかった。

大学4年になって、彼を含めた友人たちとキャンプをすることがあった。

1年のころから一緒に授業を受けていた友人たち。

誰かとキャンプをするなんて初めてだったから、新鮮で楽しかった。

 

夜、彼とサシで話す機会があった。

空気が澄み、星がたくさん見える夜だった。

彼はおもむろに話をしてくれた。

それは彼からのカミングアウトだった。

 

今まで僕以外にしたことがない話。

それは彼の中にある、自殺思念について。

4年越しの打ち明け話だった。

死にたがりと死にたがり

彼は死にたいと願っていた。

それはすぐにでも、全て投げ出してしまうようなものではなく、どこかゆるやかなものだと感じた。

その理由について、ここで書くことは控えよう。

でも黙って話を聞く中、僕は彼の気持ちを否定することができなかった。

 

昔の自分も、死を願っていた。

だから、否定なんてできなかった。

「死なないで」なんて言うのは簡単だ。

でも僕は、そんな無責任なことを言うことができない。

だから一言、言葉を選んで、

「もし死んでしまったら、俺は悲しい。」と、そう伝えた。

死にたいと願うこと、それを止めることはできないし、死なないで、とも言わない。

けれど、いなくなってしまったら悲しいし、寂しい。

そんな風に伝えた。

 

今目の前の人が、死を考えている。

そう思うと、いたたまれなくなった。

思わず彼の後ろから、彼を止めるような形で腕を回した。

抱きついているようにも見えるのだけれど、この際どう見えているかなんて関係ない。

どうせ今ここにいるのは、彼と自分だなのだら。

 

星がよく見える、真っ暗な夜。

月あかりはあれど、その明るさも薄れる夜。

彼が今、遠くへ行ってしまうような気がした。

 

意味があること

昔、自分も彼と同じ死にたがりだった。

高校の帰り道、駅のホームで黄色い線の外側を、わざと歩いてみたりもした。

今誰かが自分のことを、突き落としてはくれないだろうかと、何度も何度も、思った。

 

「あー…そっか。こういうことか……」

ため息交じりに、口からもれる。

自分の周りで起こる出来事には、必ず意味があると、よく聞くけれど。

あの時彼に出会って、仲良くなって、彼に自分のことを打ち明けた意味は、全てここにあったのかなって。

 

あらゆる出来事に、無意味なものは多分ない。

ただ、そこに未だ意味を与えていないだけであって、その空白は、意味を与えられるのを待っている。

けれど、

あまりに容易に、その意味を感じざるを得ないものもまた同様に存在する。

それを人は、大袈裟にも運命とか言ったりするんだろうな。

 

夜、星の下で彼が僕に打ち明けてくれたことを考えると、その三年も前のあの日、駅のホームで彼に打ち明けたことは、偶然ではあっても大きな意味があったのだと思う。

あの時彼に自分のことを打ち明けた、だから今の関係がある。

そう思えて仕方がなかった。

 

彼は今、元気にやっている。

彼は僕の幸せを喜んでくれる。

僕も、彼の幸せを願っている。

 

またそのうち、あいつに会いに行こうかな。

 

 

 

 

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