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では、続きです。
○
死にたいなんて簡単に言わない方がいいのかもしれない。
けれどそう口にする裏側には
きっと一言では語り尽くせないような、そういう話がある。
簡単に死にたいと言えてしまうその奥、その先に、
簡単には打ち明けられない話がある。
お互いを結びつけた共通点と言えばそんなものだった。
簡単に話すことができない話の断片を、見せてくれた。
○
打ち明けられた話
根拠のないもの
大学入ってから一番最初にカミングアウトした人がいる。
一年の春、新歓の飲み会、その帰り駅のホーム。
明確な根拠なんて無くて、ただこの人には話しても大丈夫だろうな、という曖昧な自信というか、確信に近いものがあって
それを元に話してしまった気がする。
明確な根拠のない確信。
すごく頼りない。
でも結果としてそれは本当に、打ち明けてよかったと思えるものだった。
4年越しに
卒業した今でもたまに連絡を取る。
頻繁にとるわけでもなく、半年に一度ほどお互いの近況報告がてらという具合に。
それくらいの距離感が丁度よかった。
彼とは他にもいろいろな共通点が見つかった。
〇
大学4年になって、彼を含めた友人たちとキャンプをすることがあった。
1年のころから一緒に授業を受けていた友人たち。
誰かとキャンプをするなんて初めてだったから、新鮮で楽しかった。
夜、彼とサシで話す機会があった。
空気が澄み、星がたくさん見える夜だった。
彼はおもむろに話をしてくれた。
それは彼からのカミングアウトだった。
今まで僕以外にしたことがない話。
それは彼の中にある、自殺思念について。
4年越しの打ち明け話だった。
死にたがりと死にたがり
彼は死にたいと願っていた。
それはすぐにでも、全て投げ出してしまうようなものではなく、どこかゆるやかなものだと感じた。
その理由について、ここで書くことは控えよう。
でも黙って話を聞く中、僕は彼の気持ちを否定することができなかった。
昔の自分も、死を願っていた。
だから、否定なんてできなかった。
「死なないで」なんて言うのは簡単だ。
でも僕は、そんな無責任なことを言うことができない。
だから一言、言葉を選んで、
「もし死んでしまったら、俺は悲しい。」と、そう伝えた。
死にたいと願うこと、それを止めることはできないし、死なないで、とも言わない。
けれど、いなくなってしまったら悲しいし、寂しい。
そんな風に伝えた。
今目の前の人が、死を考えている。
そう思うと、いたたまれなくなった。
思わず彼の後ろから、彼を止めるような形で腕を回した。
抱きついているようにも見えるのだけれど、この際どう見えているかなんて関係ない。
どうせ今ここにいるのは、彼と自分だなのだら。
星がよく見える、真っ暗な夜。
月あかりはあれど、その明るさも薄れる夜。
彼が今、遠くへ行ってしまうような気がした。
意味があること
昔、自分も彼と同じ死にたがりだった。
高校の帰り道、駅のホームで黄色い線の外側を、わざと歩いてみたりもした。
今誰かが自分のことを、突き落としてはくれないだろうかと、何度も何度も、思った。
「あー…そっか。こういうことか……」
ため息交じりに、口からもれる。
自分の周りで起こる出来事には、必ず意味があると、よく聞くけれど。
あの時彼に出会って、仲良くなって、彼に自分のことを打ち明けた意味は、全てここにあったのかなって。
〇
あらゆる出来事に、無意味なものは多分ない。
ただ、そこに未だ意味を与えていないだけであって、その空白は、意味を与えられるのを待っている。
けれど、
あまりに容易に、その意味を感じざるを得ないものもまた同様に存在する。
それを人は、大袈裟にも運命とか言ったりするんだろうな。
夜、星の下で彼が僕に打ち明けてくれたことを考えると、その三年も前のあの日、駅のホームで彼に打ち明けたことは、偶然ではあっても大きな意味があったのだと思う。
あの時彼に自分のことを打ち明けた、だから今の関係がある。
そう思えて仕方がなかった。
彼は今、元気にやっている。
彼は僕の幸せを喜んでくれる。
僕も、彼の幸せを願っている。
またそのうち、あいつに会いに行こうかな。
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