高校生の頃16 あちら側とこちら側

あの頃の自分が思ったこととか

あの頃自分の身の周りで起こったこととか

その全てを思い出せるわけではない。

けれど今でもごく稀に、同じような気持ちになることがあるから

これがどういう感情なのか、よく覚えていられる。

 

目次

あちら側と

誰かと違うことが怖かったわけではない。

ただ誰かと違うことで生じる孤独感が、堪らなく嫌いだった。

みんなは、多かれ少なかれ異性を好きになって

付き合って

結婚して

子供を授かって、

家庭を築いていく。

そういうのが普通で

多くの人間が、それをなぞり自分の人生にしていく。

自分は多分、それとは違う。

自分らしい人生と言えば聞こえはいい。

けれど、周りと同じように生きられないという事実を受け入れるのに

時間がかかってしまった。

どういう子が好みなの?

彼女にするなら、どんな子?

自分の近くで、友人がそれに答える。

その光景を見るのが、嫌だった。

幸い自分がよく遊ぶ人の中では、あまりこの手の話題にはならなかった。

けれど時折、クラスの他の連中が輪の中にいる時、こういう話題になった。

 

あー、そっか。

やっぱりそうだよな。

普段近くにいてくれる友達でも、

やっぱり普通なんだ。

そのうち彼女とかできて、付き合ったりする。

そういうものなんだ。

自分だけが、違った。

仲間はずれだ。

いくら仲が良くても

いくら普段側にいてくれたとしても

自分とは違う。

それだけで、すごく距離があるように思えてしまった。

 

自分勝手に

受験期が近づくと、みな図書室で勉強するようになる。

授業の空きコマ、休み時間、放課後まで。

仲のいい友達がいればそいつと、いなければひとりで勉強する。

いつも通り、図書室に向かうと、好きだった彼がいた。

でも、隣には彼と同じクラスの女の子。

あまり女の子と一緒にいる姿を見ないものだから、ひどく動揺してしまった。

「もしかすると」

と、変な考えが頭をよぎる。

ただ、異性と一緒にいただけだ。

それだけなのに。

好きな人だったからか、

全てがネガティブな方へ考えが進んでいく。

 

そうやって自分勝手にも落ち込んで

そういう自分自身も嫌いになっていく。

 

まだ、何もかもが狭かったあの時に

「隣いいですか?」

「どうぞ」

「面白い服をお召しなんですね」

「そうですかね」

「私はそういうの、好きですよ」

「そうですか」

「ところで」「死にたいと思ったことは?」

「どうしてそんなことを?」

「なんとなく、です。」

「昔、そんなこともありましたね。でもその程度です。」

「そうですか」

「……」

「そしたら、私とあなたは幾分か仲良くなれそうですね。」

「……」

「私もあなたも、一度人生に挫折をしている。諦めを知っている。そうしてそんな自分を受け入れて、今の自分がある」

「諦めとは、受け入れることだと思うんです。そうやって、何かを咀嚼して、自分で自分を納得させてきた人は、強い。人生とは妥協の連続ですから。」

「ずいぶん悲観的なんですね。」

「そうでもないんですよ。妥協とは折り合いをつけること、素敵じゃないですか。」

「諦めてるのに、素敵なんですか」

「ええ。その分だけそこには苦悩がある。その分だけ悩んで考えてるんです。そういう人は、自分の中に軸を持っている。芯がある。何も考えず何かを成せてしまった方が恐ろしい。結果だけがあったって、なんの意味もない。過程があってこその、結果です。」

「……」

「ところで、そういう意味で言えば私たちはまた、死ぬことですら諦めたとも言えます。」

「自分の人生を諦めた。だから死のうと思った。でも死ぬことすら諦めた結果、その人生を自分のものとして歩むことを受け入れている。」

「だから、悲観的ではないと?」

「ええ。結果として、現状を肯定しているんですよ。」

「……」

「ただ自分の生を肯定するだけでは足りない。世の中の大半の人間はおそらくそうです。過程が伴っていないんです。」

「しかしあなたは違う。私も違う。自分の人生を受け入れるという、肯定の結果だけ見れば一緒であっても、それは一度諦めという過程の末の肯定だ。」

「過程があってこその結果ですか。」

「そうです。そしてその過程にこそ、生きる意味っていうのが隠れているのではないですか」

「私はそこまで大層なこと考えてはいません。」

「いいんですよ。それはそれで。しかし私は、そこに隠れている意味を、妥協という結果に至る過程の中に探しています。」

「…行き着く先…生き尽く先という結果が死であって、それが誰にでも訪れる結果だとするなら、過程こそ意味があるというあなたの意見は、的を得ているのかもしれませんね。」

「あなたもいいこと言うじゃないですか。」

「そんなことないです。あなたの話を聞いた結果思ったことです。」

 

こちら側

自分と同じような人は案外多い。

そしてそれを知った時、幾分か救われたような気がした。

どういう生き方でもいい。自分の好きなように生きていけたらいい。

それでも、仲のいい人が自分とは違う生き方をすることに寂しさを覚えることもある。

 

自分勝手な話ではあるが、

そういう違いというのが、時折自分を寂しくさせる。

それはきっと、今後も変わらないと思った。

 

 

 

 

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