高校生の頃の話です。今回は6回目。
前回の5回目はこちらから。
では続きです。どうぞ。
球技大会
僕の高校は、前期後期の二学期制だった。夏休みが明け後期になり、球技大会の季節になった。
サッカーとバスケの選択制で、バスケを選んだ。
小学生の頃少しだけバスケの経験があったためだ。
いつも仲良くする(週末カラオケに行く)メンバーのほとんどがバスケを選んだおかげで、すごく楽しかったのを覚えている。
ただ彼だけはサッカーを選んだ。
「まぁ経験者が二人いるし、大丈夫じゃね?」
そんなノリでチームが組まれた。
経験者の彼はTと言って、僕と名前が近く親近感があったのを覚えている。
少し細身で身長が高く、いわゆる「イケメン」ではなかったが笑顔が魅力的な子だった。
Tも、好きだった彼と同様、人懐っこい性格だった。
「俺らがいれば優勝だよね」
Tは僕の肩に手を置いて、笑いながらそう言って見せた。
球技大会があったのは冬の手前、少し肌寒くなる時期だった。バスケはそこそこの成績で順位を上げていった。
僕のパスからTのシュートに繋がる瞬間。
それが最高だった。
ハイタッチをしてチームでハグし合って試合を終えた。
○
「じゃあサッカー、応援に行こうか」
半袖のシャツの上からジャージをはおり、グランドに向かう。
丁度彼の試合が始まる少し前だった。
「試合勝った?お疲れ様!」相変わらず彼は元気だ。
グランドの前にあるベンチに、僕、彼、Tが腰をかけた。
「試合の時はジャージいらないからもっててね。」
周囲が一瞬にして暗くなる。
何が起こったのかすぐには理解できなかった。
突然彼がジャージを脱ぎ、それを僕の頭の上から着せるようにしてかぶせたのだ。
好きな人のジャージに顔を突っ込んでいるのである。
顔が熱くなるのが分かった。
本気で照れてしまっている。
今自分がどんな顔をしているのかわからない。
こう言う時周りの目が気になってしまうのだが、そんなこと気にする必要はなかった。
(僕の顔は、彼のジャージの中だからだ。)
きっと恥ずかしいくらいにいろんな感情が、顔に出ていたと思う。
急なことでびっくりして、恥ずかしくて。
当然ながら好きな人の匂いがするものだから、嬉しくなり、表情がくずれているような気がした。
そのまま彼のジャージを着ているのも恥ずかしい。
そっと脱ぎ、綺麗に畳んで膝の上に置いた。
ようやく顔を上げると、どうやら試合がもう始まるという時だった。
ベンチから離れグランドに向かう彼の背中が見えた。
短い髪で、少し低めの身長。それでも体は鍛えられているからか、頼りがいのある雰囲気。
普段にこにこしながら笑っている、そんなゆるめな空気のある彼でも、この時は、かっこいいと思ってしまった。
膝の上にあるのは、彼の苗字が書かれているジャージ。
少しだけそれをぎゅっと握った。
〇
試合は好調で、僕のクラスが優勢だった。彼がいるチームはサッカー部が多いためだ。
クラスメイトがシュートをきめる度、声援があがる。
そんな中彼もシュートを決めた。
グラウンド中央からパスをもらい、ドリブルでゴールとの距離を詰める。
キーパーの隙をつき、長めのシュートを放った。
普段の彼とは少し違った。もちろん彼が部活をしているところは目にしたことがある。
でも、彼のプレーをここまできちんと見たのは、これがはじめてだった。
グランド中を駆け回る彼は、普段の姿から想像できないくらい鋭いものだったと思う。
それでも、他のメンバーに見せ場を作るような動きをしていた。
そこが彼らしくもあって、少し嬉しくなった。
○
「おつかれ。」
「ありがとー!」
試合の後、彼が戻ってきた。
「シュートきめてたね。かっこよかったよ。」
「うん!楽しかったよ。」
グランドを出た彼は、普段通りの彼に戻っていた。
「次バスケはまた試合があるんだっけ?見に行くね」
「ありがとう。サッカー勝ったし、バスケも勝たないとね。」
秋中ごろの、少しだけ乾燥した風が吹き、砂が舞う。
汗もまだ乾かぬままの体を翻し、木の葉と砂の舞うグラウンドに背を向け、階段をのぼった。
体育館は校舎の二階にある。
次は僕の番だ。
僕のジャージは、彼に持っておいてもらおうかな。
そんなことを思いながら、軽い足取りで、体育館へと向かった。
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